超激動時代の幸せな生き方

20年以上前に訪れたボルネオ島の先住民プナン族.
自然と調和して生きるプナンの長老からお預かりしたメッセージは、2020年からの私たちの生き方へのメッセージでした.

私がTaoYogaをすることになった深い理由も、このメッセージに関わるものなのです。

 

横浜の「NPO法人umiのいえ」の通信に書かせていただいたボルネオ島の旅日記、「umiのいえつうしん」には載らなかった未公開分を含めて掲載させていただきます.

ちょっと長いですが、どうぞお読みくださいね。


超激動時代の幸せな生き方
~ プナン族の長老からの時空を超えたメッセージ ~

今引っ越そう!という直感

2020年1月半ば、私たち家族は生まれ故郷の北海道を離れ、神奈川県湯河原町へ移住しまし た。いずれ暖かい土地に住もうということを夫婦間で決めていましたが、湯河原という選択肢は 考えたこともありませんでした。極寒の時期の引っ越しに私たちを突き動かしたのは、「今動か ないと、この先しばらく動けなくなるかもしれない。今が絶好の断捨離のタイミングだ。」とい う直感でした。私たちは家財道具のほとんど全てを友人たちに譲り、お気に入りの衣服、3歳の 娘の絵本とおもちゃ、楽器など必要最小限の荷物を段ボールに詰め込んで、有難いご縁といくつも の奇跡に導かれるように、新天地へと向かうこととなったのです。

その直後に世界を襲ったコロナショックは、私たちに「直感を磨くこと」、「その直感に素直 に行動すること」の大切さを再認識させることとなりました。

志事のはじまり 

 

私たち夫婦は、湯河原町でタオヨガという古来中国からの心と体の養生法をお伝えしていま す。タオヨガは動く瞑想とも言われ、へそ下の丹田を目覚ませて心身を整えるものです。本当の自 分の声を聴き、その声に素直に生きる道を本気で歩むために、私たちはタオヨガ教師となりました。

 

今から遡ること30年ほど前の1990年頃、私は当時勤務していた電力会社で、あるプロジェクト に携わることになりました。それは、二酸化炭素の排出がこのまま続くと地球環境はどのように 変化し、社会にどのような影響が出るのか調査するものでした。当時はまだ、地球環境問題は新 聞やテレビなどのマスメディアではほとんど取り上げられることのない時代でした。全国の電力会 社のメンバーが2年をかけて調査し、地球環境問題は近い将来深刻になること、それを防ぐにはエ ネルギーの消費量を大急ぎで1/3に減らす必要があるということがわかりました。私は自分の会社 の社長に調査結果を報告し、この会社の中で私はどうしたらよいのか、その悩みを話しました。 黙って私の話を聴いてくださった社長は一言だけ、「それは君のライフワークにしなさい」と言 われました。 それ以来私は、有給休暇と自費でヨーロッパに自然エネルギー利用を学びに行ったり、地球環 境に関する国際会議に参加したり、会社の仕事と並行した「自分の志事」が始まりました。その ような志事に取り組んでいくうちに、地球環境を破壊している根本の要因である、「私たち一人 ひとりの心のありよう」を変えなければ、数多くある地球環境問題は決してなくならないと心底 思うようになりました。このようにして、この現代に自然とともに生きている人たちの精神性に 触れてみたくなったのです。

プナン族を訪ねる 

 

ボルネオ島を訪ねたのは、今から22年前の1998年のことです。ボルネオ島は南シナ海の南の 端に位置し、マレーシア・インドネシア・ブルネイの3カ国が領有する日本の約2倍の広さの島 です。地理的に1億年ほど現在の位置から動いていないため、この島は世界最古の熱帯雨林を持 つと考えられています。石油・石炭・ダイヤ・金・銅・すずなどの地下資源開発や、パームオイル の生産が盛んです。島には数十の民族がそれぞれ独自の言語と文化を持って生活しており、私は 「森の最期の狩人」と呼ばれるプナン族を訪ねることとなりました。

マレーシアの首都クアラルンプールを3人で出発し、小型飛行機とボートを乗り継ぐこと1日 かけて、森の中のプナン族の集落へたどり着きました。プナン族は、森の中で狩猟をしたりサゴ ヤシや山菜を採りながら移動する生活を続けて来た民族です。私たちのために開いてくれたウェル カムパーティーでは、古くから伝わる笛を奏でてくれたり、森で狩ってきたばかりの熊を料理して くれたり、夜更までもてなしてくれました。私たちの相手をしてくれた村のリーダーのお話では、 内臓は食用に、骨や爪、歯は矢尻などの道具に加工し、毛皮は衣服や敷物に使い何も捨てるとこ ろはないそうです。そして熊や森に対する感謝の気持ちを忘れないこと、最近は森が伐られ獲物 が取れなり、川が汚れて魚が取れなくなったことなど、瞳の奥に深い微笑み湛えて話してくれまし た。

 

 

痛めつけられる森と川 

 

空から見たボルネオの森は衝撃的でした。至るところに見える伐採の跡。森の奥へ進んでも、 伐採のために作られた林道が網の目のように張り巡らされていました。蛇行している川が茶色く 濁り、河口から泥水がエメラルドグリーンの海に注いでいるのが見えました。 熱帯では、バケツをひっくり返したような物凄い豪雨が降ります。その雨は、普通は直接地面 に当たることはありません。うっそうと生茂る木々の葉が、大きな雨粒を受け止めるからです。 しかし森が伐採されると、豪雨が表土を削り鉄砲水のように川に流れ込み、川が土色に濁りま す。川で魚が採れなくなっていると言っていた原因は、それなのかもしれません。 ボルネオ島で伐り出された木材の輸出先1位は日本です。私たちの木材消費で、永遠の豊さが 失われていることに、かつての自分も含め一体どれだけの人が気づいているのだろう。そう思うと胸が締め付けられる思いでした。

緑の監獄

 

 巨大なパイナップルトゥリーのような、一面のヤシ林。一見、素敵な南国の自然に映るかもし れません。けれども、その林の中に一歩入るとその不気味さに気づきました。虫の声、鳥のさえ ずり、小動物の気配が全くしない沈黙の林です。 ボルネオ島では、先住民が暮らしていた森が皆伐(木を伐り尽くすこと)され、火を放たれ整 地された後、オイルパームのプランテーション(単一の作物を栽培する大規模農園)になっている のです。森を失った先住民たちは、やむなくプランテーションの労働者となります。そこでは、既 に日本で使用が禁止されている除草剤や殺虫剤が使われていました。賃金が約束通りに払われな かったり、土地を返してもらう約束が破られたりするなど、先住民労働者が不当で過酷な条件下 で働いていたのです。私たちを案内してくれたプランテーションの労働者は、ヤシ林で働いている 少年を指差して、「あの子も農薬で、呼吸器と皮膚をやられて3年ともたないだろう。ここは緑の 監獄だ。」と語ってくれました。 パームオイルの需要は尽きません。マーガリンやファストフードの揚げ油、ショートニングやア イスクリームなど様々な食品のほか、石鹸、洗剤、化粧品の原材料として世界で最も多く利用さ れている植物油脂で、私たちはその恩恵を大いに受けています。

村の長老からのメッセージ 

 

プナンの村を訪ねて、いくつか気づいたことがありました。彼らは「ありがとう」と言う意味 の言葉を持たないのです。現地にいるときは、「ありがとう」を言いたくても、通訳してもらえず ずいぶんもどかしい思いをしていたのですが、帰国後にその理由を知ることとなりました。 「ありがとう」と言うのは、自分に対して他者が何かをしてくれた時に述べる感謝の言葉。プナ ン族にとっては、他者のために何かをすることは当たり前のことなのです。だから「ありがと う」と言う言葉は必要ないのだそうです。テレビも車も、きれいな衣服すらないプナンの村に は、私たちの社会にはない弾けるような笑顔、自然との一体感がありました。 しかしプナンの多くの村では政府による定住化、近代教育が進められていました。学校では 「モラル」と言う教育があり、森を出て畑を作りなさい、家を建てて定住しなさい、人前では服 を着なさいといった考え方が植え付けられているそうです。その教育によって子どもたちは、 「自分のモノを所有すること」を覚え、「モノをたくさん持つことは価値のあること」と考える ようになっているそうです。それを教えている学校は、途上国支援という名のもと、私たちの国か らの援助で作られています。

最後に、プナンの村の長老からのメッセージをお伝えさせていただきます。長老は病で床に伏 しており、私たちが村を離れる最後の日にお会いすることができました。

 

「森は食べ物や薬、たくさんの恵を与えてくれる。だから私たちもあなたたちに惜しみなく与えて きた。でももうおしまいだ。残っているのは子どもたちの分だからだ。それはあなたたちの子ど もたちの分でもある。森は私たちの命そのものだ。もう奪うのはやめてほしい。これ以上子ども たちの心を奪うのはやめてほしい。私たちは何も持たなくても、十分幸せに生きている。」

20年以上の月日が流れて 

 

帰国後の私は、プナンの村での体験をお話ししたり、旅の日記を新聞に連載してもらったり、 自分なりにこの体験を風化させないように努めてきました。20年以上の時が経ち、ボルネオ島の 森林伐採やプランテーションでの不当労働のこと、パームオイルはそういった背景を持つ商品であ ることを、今では多くの人が知ることとなったと思います。帰国後10年の後、私は会社を退職 し、様々な環境問題に向き合うようになりましたが、心の何処かには常にあの村の子どもたちの こがありました。 東京オリンピック準備で沸き立つ昨年、私の目にショッキングなニュースが飛び込んできまし た。それは、然に優しい建設として評判の新国立競技場の、見える化粧部分には国産材が使わ れているけれど、基礎のコンクリートを流す型枠材にはボルネオ島の木材が使い捨てされている というものでした。20年以上経っても事態は変わっていなかったのです。 この地球には、森林伐採や先住民の人権以外にもたくさんの問題があります。戦争や紛争の原 因は、地下資源の争奪から今は食糧や水の争奪に変わっています。根本原因である一人ひとりの 心のありようが変わらない限り、問題は様々な姿で現れてくるでしょう。 この超激動時代の地球を幸せに生きるための答えは、プナンの長老のメッセージにあると思う のです。それは、私たちも「心を奪われない」こと。限りない欲望・不安・恐怖・怒り...今この 時、私たちの心を奪うものに静かに立ち向かうことです。この世界は内面世界の投影でしょう。 この30年、地球環境や平和に関わる活動に参加し、心から思うことは、自然との調和や世界の平 和は、心の中に調和や平和がある人たちによってこそ実現するのだということです。私たちがす ることは自分の内面を整え、本当の自分の声を聴き、その声に素直に生きること。それが今ほど 必要な時はありません。何も持たなくても十分に幸せに生きている人たちの心のありように、今 こそ私たちが真剣に学び行動する時だと思うのです。